「霧の向こうの不思議な町」でデビューした柏葉幸子先生(以下、敬称略)の最新作「岬のマヨイガ」が2021年8月21日に映画公開されることになりました。
(「霧の向こうの不思議な町」は「千と千尋の神隠し」の下地になった作品。)
ピペットばあさんや湯婆婆のような意地悪でステキなおばあさんが、出てくる柏葉作品。
「岬のマヨイガ」でも87歳のおばあさん「キワさん」が、中心に近い部分でストーリーを動かしていきます。
そんな気になる「岬のマヨイガ」の原作のあらすじをまとめてみました。
『岬のマヨイガ』原作あらすじ/東日本大震災と岩手県遠野につたわる伝承を柏葉幸子が練り上げたファンタジー
舞台は岩手県の海辺町。
東日本大震災で大きな被害を受けた、「狐崎」です。
柏葉幸子作品では、「どこかにあって欲しいようでない」そんな町がファンタジーとして描かれることが多いのですが、今回の作品は「現実にほぼ近い」街が描かれています。
物語の始まりは女性2人が出会うことから始まる。
事故で両親を失い、全く面識のない伯父さんにひきとられることになった小学5年生の萌花。
夫のひどいDVによって東京から逃げてきたゆりえ。
「岬のマヨイガ」では、岩手県でたまたま電車で一緒になった2人が、震災に巻き込まれます。
大津波からからくも逃れ、避難所で一緒になる2人ですが、「身元は?」と問われ、躊躇することに。
そこに温かい手を差し伸べてくれたのが、キワさんでした。
キワさんは、萌花を自分の孫の「ひより」、ゆりえを自分の嫁の「結」と周りには偽り、岬の茅葺家で3人で一緒に暮らし始めるのです。
そこが「マヨイガ(迷い家)」でした。
昔話にくわしく「ふしぎなもの」とも仲のいいキワばあちゃんが物語の扉を開く。
ある晩、「お客が来る」というキワばちゃん。
準備をしていると、現れたのは河童たち。
キワさんは「ふしぎなものたち」と関われる力をもつ。
そのキワさんの考えでは、震災で封印が解け、「邪(よこしま)なるもの」が浜に押し寄せてくるという。
岩手に住まう、河童や座敷童、そして各地のお地蔵様の力を借りて、そして「ひより」と「ゆりえ」も力を合わせて、浜を守る戦に挑んでいきます
『岬のマヨイガ』原作で描かれる「邪」は人間の心の闇
封印がとかれた邪悪なるもの、それは人間の悲しみ、辛さを餌にする海蛇です。
東日本大震災で多くの人が犠牲になり、たくさんの悲しみや妬み、恨みが世の中にあふれました。
「岬のマヨイガ」舞台の狐崎では、被害が甚大だったことから、その心痛は急速に世の中の空気を席巻していったことでしょう。
「どうして自分だけが・・・」というその黒い気持ちを、ウミヘビはどんどん喰らい大きくなっていく・・・
そんな恐ろしい様子が「岬のマヨイガ」には描かれています。
そして、この気持ちは理不尽な思いをしたひよりと結も同じこと。
大きな生活の破壊があったあとで、ふだん押し込めていたの心の蓋まで開いてしまう、人間の悲しい現実の描写がとても生々しく、印象的です。
この闇にどう立ち向かっていくのか・・・大きなテーマが物語で描かれます。
ここに出てくる海蛇は、自分の負の心を映す鏡。
自分はどのように見えるのか、しばし考えてしまいました。
『岬のマヨイガ』原作は人との絆のあり方も考えさせられる
「岬のマヨイガ」のもう一つのテーマに、「絆」があります。
仮の家族であっても寄り添い困難に立ち向かう3人の姿。
消すことのできない負の感情に飲み込まれないよう、頼り頼られる姿の大切さ。
見知らぬものとの出会いと縁。
土地とのつながり。
そんなことも『岬のマヨイガ』には描かれています。
私は何かと絆を作れてるのかな?その絆は太いのかな?と考えさせられます。
『岬のマヨイガ』原作は児童文学でありながら大人にも骨太なファンタジー。
「岬のマヨイガ」は2016年に野間児童文芸賞を受賞している、れっきとした児童文学です。
「善」と「悪」をはっきりと決めているあたりは、少し大人にはしんどいところもありますが、震災時の人々のやるせなさを遠野の物語とからめ、ファンタジーとして昇華させているあたり、とても柏葉作品らしいと思います。
自分だけどうしてこんなに苦しいの?
どうして自分だけこんな思いをしなければならないの?
という大人にも読んでもらいたい文学作品です^^
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